公立大学法人 奈良県立医科大学脳神経外科

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7−WFNS 2013 in Seoul に参加して

2015年03月22日

朴   永 銖


 2013年9月8日から13日にかけて韓国ソウルで開催されましたWFNSに参加して参りましたので皆様にご報告いたします。

 今回のWFNSは,ソウル大学病院病院長で脳神経外科学教室 元主任教授のProf Jung Hee-Wonが会長を務められました。私は,2006年の7月からソウル大学こども病院へ短期留学し,多くの事を学ぶと同時に,沢山の優秀な先生方と知り合いになる事が出来たいきさつもあり,是非,ソウルで開催される世界的な脳神経外科学会に参加したいと,“ダメもと”承知で口演発表の演題申し込みを致しました。

 待つこと数週間,予想もしていなかった案内が学会事務局から送られてきました。何と驚いたことに,口演発表演題が受理されたのみならず,breakfast seminarでのinvited speakerでの講演の依頼でした。内容はpreterm infantsに対するneurosurgical careというもので,このテーマこの数年間,私が心血注いで取り組んできた,『超低出生体重児脳室内出血後水頭症に対する新たな治療戦略』という臨床研究に合致するものでした。さらには,oral sessionでのco-chairの大役の依頼も受けることになったのです。WFNSという晴れ舞台で,このような名誉ある機会を得ることが出来たのは,まるで夢のような気持ちであったと同時に,卒業後20数年間,懸命に臨床に励んできた集大成とも感じ取ることが出来ました。

 先に述べた,『超低出生体重児脳室内出血後水頭症に対する新たな治療戦略』という発表は,私が繰り替えし何度もいろんな学会で発表してきたので,大学医局の先生方には“耳にタコ”ができてしまっていると思いますが,簡単にだけ述べさせていただきます。

 近年,新生児集中治療の進歩で,1000グラム以下で出生する超低出生体重児の多くが救命可能となってきました。しかし,最も重篤な合併症として,germinal matrixの毛細血管の破綻によって生じる上衣下出血による脳室内出血は,予後を大きく左右しています。 IVH grade Ⅲ,Ⅳの症例をいかに治療し,生命予後のみならず神経機能予後を改善させるかが小児神経外科医に立ちはだかる大きな課題の一つであります。新生児科医と協力し,菲薄化したmantleを速やかに厚くすることを重要視し,持続的に髄液を排除する脳室ドレナージ管理を積極的に導入し,最重症のGrade Ⅳの症例に対しては,ウロキナーゼを脳室ドレナージより投与する線溶療法により,脳室内・脳内血腫を早期に除去するのみならず,生理的な髄液循環を回復させ,炎症性のサイトカインや,free radicalを早期に取り除くことにより白質の障害を軽減させることが,救命率の向上のみならず,シャントフリーな状態を獲得し,神経機能予後の改善につながることを報告して参りました。

 Invited breakfast sessionでは,総論として低出生体重児脳室内出血さらには水頭症が生じるメカニズムについて解説し,本邦における低出生体重児脳室内出血の現状,この病態に対する現段階での標準的な治療を紹介した後に,我々の治療戦略ならびに治療成績について発表いたしました。

 私の次のスピーカーであった,St. Louis Children’s HospitalのProf PARK TS(韓国から渡米された脳神経外科医で,非常に御高名な先生)が,“もう一人のPARKが述べたように, No shunt is the best treatment”と賞賛してくださり,大変光栄に存じた次第でした。また,Asan Medical CenterのProf Ra HSからは,“一度うちの病院に来て,講演してくれないか?”,“共同研究しようじゃないか”と身に余るお声がけをいただきました。

 一般演題のoral presentationは,水頭症のセッションであっため,アフリカ諸国の脳神経外科医が熱心に発表に耳を傾けていました。アフリカ諸国では,困難な動脈瘤手術や頭蓋底外科手術などは,解決すべき当面の問題でなく,罹患数の圧倒的に多い水頭症をいかに治療するかがより重要な切迫した課題なのだな,と実感しました。

 今回,このような名誉ある機会を得ることが出来たのは,実は二つの要因があったのです。一つは,同じ内容でも,自信をもって繰り返しアピールしつづける事の重要性を教えてくださった,榊寿右前教授の御助言があります。数年前,横浜の総会で,たまたま廊下ですれ違った際,“朴先生,先生が今頑張ってる,あのちっこい赤ちゃんの治療,有名になってるよ。何度でもいいから発表しつづけるんだよ”とのお言葉。まさに,実を結んだ形です。

 もう一つは,積極的に国内はもちろん国際学会で発表することの重要性です。今回のinvited speakerは,ソウル大学のProf WANG KCとセブランス病院(延世大学)のProf KIM DSが推薦してくださった,との事を後日談でうかがいました。Prof WANGは2010年のISPN(国際小児神経外科学会)の会長であり,もちろんソウル大学留学中にいろいろとご指導いただいた先生であり,Prof KIMは2009年に田村先生と小児のてんかん外科手術の見学にセブランス病院を訪れた際にお世話になった先生です。お二人とも,韓国における小児神経外科学会の重鎮中の重鎮です。

 WFNS学会中に,多くの先生方との再会を果たしました。ローマカトリック大学のProf Di Rocco,ソウル大学のProf CHO BK,Prof KIM SKなど留学先での多くの師匠達との再会,本当に意義深いものでありました。こう考えますと,自分の専門分野で,いかに人脈を深く広く築き上げていくかが大変重要であります。若い先生方も,一人でも多く海外留学に積極的にチャレンジすることを願う次第です。

 最後に,このような発表の機会を得るにあたり,日々,御指導くださいました中瀬教授,困難な治療に一緒に立ち向かってくれた同志である新生児科スタッフの皆様方に,心より感謝申し上げます。

 

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