プロフィール
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河野 俊希 医員
- 入局年度:2023年(令和5年)
医師を目指したきっかけ
医師を目指したきっかけは、中学2年の時でした。元々医師だった父親の影響で、医師という職業自体は馴染みがありましたが、当時は弁護士など人と話すのが得意な面を活かす職業に就きたいと思っていました。
そんななか中学2年の時に母親が乳癌と診断されました。検診でたまたま発見され、身近な人がガンになり非常に衝撃を受けました。幸いにも早期発見だったため入院して手術する方針になり、入院中はほぼ毎日祖母や祖父と母親のお見舞いにいっていました。手術前日のお見舞いの際に突然病院内で急に祖母が倒れてしまい、周りで医師の父や家族がさっと動くなか、自分は何もできず、あのときの院内の光景は今でも忘れません。祖母は膵臓癌の末期であり、その年のうちに亡くなってしまいました。あの時の自分の無力さをきっかけに、自分も身近な人を助けられる医師を目指そうと思うようになりました。
脳神経外科での実践的な研修の印象
大学時代は医師になることは漠然と考えていましたが、どの科を専門にするかは全く考えていませんでした。
大学4年の後半からの病院実習で、様々な科の研修が始まり、脳神経外科へ魅力を感じるようになりました。特に、先輩医師の指導が丁寧で、研修内容も実践的でとても興味深いものでした。
手術中は傍らで詳しく解説していただき、医学的な理解を深めることができました。あの病院実習がなければ、脳神経外科を選ばなかったと思うほど非常に有意義なものでした。
研修先の病院での経験
私の場合、2年の研修期間はほとんど内科研修で、外科はほとんどありませんでした。しかし、最初から脳神経外科や放射線科には興味があったため、そちらを目指そうと思っていました。
内科研修では一通りの科を経験しましたが中でも研修1年目、緊急入院患者を担当した際の経験が印象的でした。最初は、蜂窩織炎(ほうかしきえん)や壊死性筋膜炎が疑われ総合内科で入院となり担当医になりましたが、精査をすると大腿骨頚部骨折で手術が必要な状態でした。
整形外科医に相談し緊急手術となり、内科研修中ではありましたが執刀医として手術に入ることを許可されました。術後は患者の回復が大変良好で、無事に自宅に退院となり、手術の重要性と効果を実感しました。
次に消化器外科を回り、朝から晩まで手術にあたる忙しい日々を過ごしました。緊急手術を行うことも多数あり、手術で患者が回復していく過程を目の当たりにできたことは非常に貴重な経験であり、外科医になることを決意した大きなきっかけでした。
また麻酔科の研修で様々な手術を見学した際も、外科医の先生のかっこよさを感じ、さらに外科医を目指す気持ちが確固たるものになっていきました。
外科手術以外の業務
外科というと、手術のイメージですが、実は手術以外の時間の方が長いと思います。手術を行う前には血液検査、画像検査や血管内検査など様々な検査を行い、手術が本当に必要か、適応があるかを慎重に検討します。また、手術の前には多くの先生方と議論を重ねます。
手術自体は1日で終わりますが、その前後の術後管理の方が非常に重要であり、頭蓋内に出血がないか、皮膚切開部に感染がないかどうかなど、細心の注意を払います。
また脳梗塞や脳内出血の場合、保存的な治療で管理することも多く、必ずしも全てのケースで手術するわけではありません。
原因として糖尿病や高血圧、脂質異常症がある場合、内科的管理が重要なため内科的な勉強も行っています。
脳神経内科との連携
脳卒中の診療では脳神経内科と密に連携しています。
手術や血管内治療が必要な症例は脳神経外科医が中心となりますが、それ以外の症例では両科で診療します。
例えば、脳出血で手術が必要な場合は、脳神経外科医が主治医となり、保存的加療が主となる場合は、脳神経内科医が主治医となることがあります。
両科はSCU(Stroke Care Unit)を共同で運営し、毎朝カンファレンスを行って患者情報を共有しています。週1回の大きなカンファレンスで治療方針を話し合っています。
このように脳神経内科と脳神経外科は密接に連携し合いながら、脳卒中医療にあたっています。
入局前後の印象の違い
実際入局してみると、もともと脳神経外科に抱いていたイメージとは全然違いました。
市中病院での研修では、脳神経外科は脳卒中の治療がメインで、緊急の血栓回収治療が多いイメージでした。しかし、大学病院では緊急手術よりも、てんかんや小児の症例、血管内治療など、他では治療できない症例を専門的に治療することが多いです。もちろん緊急手術もありますが、予定手術が中心になります。
脳神経外科の中に様々な専門分野があることを知り、奈良県の大学病院でしかできない手術や治療がたくさんあることを知りました。
入局後の進路
入局から5年後の専門医試験を受ける頃には、サブスペシャリティの方向性をある程度決めておく必要があります。
前述のとおり脳神経外科には様々な専門分野があり、それぞれに魅力があります。勉強を進めるほど、どの分野も奥が深く、親切な指導医のもと、どの分野も楽しく研修できる環境であり、専攻の選択は非常に悩んでいます。
後輩へのメッセージ
外科は内科に比べて大変なイメージがあると思います。確かにしんどい面もありますが、一方で手術後に患者さんが回復していく姿を見る時の喜びは、外科医でなければ味わえないものがあると思います。
私が医師を目指したのは、人の役に立ちたいという思いが基本にあります。その思いを形にできている実感があるのが、外科医のやりがいだと感じています。個人的な動機の違いはあると思いますが、「この人を救いたい」「自分がいなければこの人は助からない」と思える気持ちがあるなら、脳神経外科医は素晴らしい仕事だと思います。